AI (人工知能) 07-15-2025

AI時代に求められるデジタルトラストの新たな姿

Ashley Stevenson

AIがトラストを一層難しくする――そう考えがちです。モデルは増え、合成コンテンツは増え、不確実性も増えるからです。

しかし意外な真実があります。AIは、使い方次第で、これまで以上に強固なトラストを実現できます。あなたが構築するものを検証するだけでなく、その完全性(integrity)を能動的に立証し、出所・来歴(プロベナンス:provenance)を追跡し、リスクが拡大する前に警告してくれるシステムを想像してください。より速く、ではなく、より賢く信頼できるようにするシステムです。

私たちはデジタルトラストの新時代に入っています――人工知能がリスクの源であるだけでなく、基盤的なパートナーとなる時代です。

AI時代の信頼危機

デジタルトラストはこれまでになく不可欠であり、同時にこれまでになく脆弱です。組織がより速く動き、AIを深く採り入れるほど、従来の信頼ツールは追随に苦慮しています。

AIモデルは、オープンなリポジトリから取得され、チームを越えて再利用され、本番環境へ展開されることが増えています。暗号学的(cryptographic)な証明(proof)や正当な系譜(lineage)が検証されていなければ、安全か、コンプライアンスに適合しているか、あるいは真正かを判断することはできません。同時に、ディープフェイク、生成テキスト、偽造メディアは証拠という概念そのものを揺るがし、契約やコミュニケーション、さらにはIDまでも容易に偽装できてしまいます。

一方で、AIシステムは、人や組織に代わって自律的に行動し始めています。意思決定を行い、トランザクション(transaction)を実行し、機微なデータにアクセスします。これらのエージェント(Agent)には、固有のデジタルID、資格情報、失効プロトコルが必要です。

問題は、これらの動態が激化するかどうかではありません。あなたの信頼オペレーションが、それに耐えうる設計になっているかどうかです。

デジタルトラストにおける、驚くべきAIの味方性

AIは新たな脅威を持ち込みますが、同時に新たな能力(capabilities)ももたらします。適切な設計と監督のもとで、AIは反応的なセキュリティから能動的なトラストへと組織を導きます。具体的には次の通りです。

  • 検証の自動化: AIは、暗号署名の確認、メタデータの検証、ソース入力の追跡を高速に行い、モデル・ソフトウェア・コンテンツのバリデーションを、人手作業では不可能な速度で加速します。
  • 先回りのインサイト: インテリジェントなシステムは、異常の検知、期限切れや不正使用された資格情報の特定、インシデント化する前のリスクの顕在化を支援します。
  • コンプライアンスの実装: EU AI ActやC2PAのように絶えず進化する規制に対し、AIはコンプライアンス要件をほぼリアルタイムで解釈・優先度付け・実行するのに役立ちます。
  • 非専門家への可用性: AIは、暗号学的アーティファクトを平易な説明に翻訳し、法務・コンプライアンス・事業部門がトラストガバナンスに参加できるよう支援します。

AI時代に適合したトラスト運用への再設計

AIドリブン(AI-driven)な世界を航行するには、優れたツールだけでは足りません。信頼に対する組織の考え方そのものの転換が必要です。静的な従来型のトラスト運用モデルでは、現代システムの速度と複雑性に追いつけません。求められるのは、はじめからインテリジェントで、統合され、適応的な新しいモデルです。

この新しいアプローチでは、完全性の証明はデプロイ時の一過性イベントではなく、継続的なプロセスです。トラストはAIモデル・データ・コンテンツのライフサイクル全体に伴走し、あらゆる段階で起源と所有の追跡可能性を提供します。AIによる意思決定は透明かつ監査可能であり、信頼は「仮定」ではなく「検証可能」でなければなりません。何よりも重要なのは、トラストがワークフローに直接組み込まれること――人手で開けるゲートではなく、既定で有効な状態として。

これこそがトラスト運用の未来です。ダイナミックで、レジリエントで、AI時代のスケールと自律性に対応できるもの。

トラストプラットフォームにおけるAIアシスタントの台頭

  • 最も有望な進展のひとつが、トラストプラットフォームに組み込まれた特化型AIアシスタント(AI assistant)の登場です。
  • 汎用チャットボットと異なり、これらのアシスタントはトラストアーティファクトやセキュリティプロトコルで訓練されています。次のことが可能です。
  • モデルのメタデータやアテステーション(例:AI Bill of Materials(AI BOM:構成表))を要約。
  • 「このモデルは署名され、本番承認済みか?」「先四半期にどのAIエージェント(Agent)がこのデータセットへアクセスしたか?」といった質問に回答。
  • 暗号署名ワークフローの起動や、資格情報の自動発行。
  • あらゆる判断と推奨を一貫した追跡可能な監査証跡として保持。

これらのアシスタントはトラスト運用を強化するだけでなく、よりスマートで、迅速で、協働的なものへと再定義します。

安全で責任ある、AI駆動のトラスト構築

強力な技術には節度と監督が不可欠です。AI駆動のトラストの利点は、責任ある設計にかかっています。

主な留意点は次の通りです。

  • データプライバシ(data privacy)と制御(control): AIアシスタントはロールベースのアクセス制御を強制し、意図しないデータ露出を防がなければなりません。
  • 説明可能性: すべてのアクションと推奨は、内部監査人と外部規制当局の双方に対して追跡可能で、正当化できる必要があります。
  • 標準への整合: コンテンツ完全性のC2PA、資格情報のPKI、AIリスクのNIST RMFなど、実証済みの標準への準拠は不可欠です。
  • 人による監督: AIは力を拡張しますが、最終判断と説明責任は人にあります。

デジサートの見解:イノベーションの速度に合わせて拡張するトラスト

デジサートは20年以上にわたり、デジタルトラストの基盤を守ってきました。数十億の証明書を検証し、世界の重要インフラを保護し、ソフトウェアサプライチェーンを防御してきました。

いま、AIがコンテンツ生成と意思決定を再構築する中で、私たちは新たな必然性を見ています。暗号学的保証と運用の完全性を、インテリジェントシステムにも同じレベルで適用すること。

そのために、私たちは次の領域を支えるソリューションを構築しています。

  • モデル署名: 署名機能を拡張し、AIモデルの検証と認証を可能にします。
  • AI BOM(Bill of Materials:構成表)アテステーション: モデルの構成要素、学習データ、来歴の検証可能な記録を発行します。
  • C2PA統合: メディアやドキュメントに、真正性のプロベナンス(provenance:出所・来歴)を直接埋め込みます。
  • DigiCert ONEのAIアシスタント(AI Assistant): トラストチームがAIの速度(at AI speed)で、確信(confidence)と明瞭さ(clarity)をもって運用できるようにします。

イノベーションの速度で動くトラスト

AIはデジタル世界を再形成しています。しかし、適切な基盤があれば、その世界を守る力にもなります。

成功する組織は、AIを恐れる組織ではありません。完全性を強制し、ガバナンスを自動化し、あらゆる段階で「信頼できる」と証明するためにAIを活用する組織です。

AIがあなたのトラスト運用をどう強化できるか探りたい方は、こちらからお問い合わせください。イノベーションの速度で動くトラストの未来を、ともに築きましょう。