米国政府は、PQCへの移行スケジュールを明確にしました。大統領令14412では、重要システムを量子コンピュータ耐性を備えた暗号方式へ移行する期限が定められています。この期限は、連邦政府だけでなく、テクノロジーベンダ、政府請負業者、民間組織にも広く影響を及ぼすことになります。
政府機関と取引がある組織、規制対象業界を支援している組織、または最新の公開鍵基盤(PKI)を利用している組織は、今こそ移行計画を開始すべきです。この大統領令が直接適用されるのは連邦政府機関ですが、その影響はテクノロジーエコシステム全体に広がるでしょう。
2026年6月22日にトランプ大統領が発令した大統領令14412では、連邦政府機関に対し、短期間でPQCを導入することを求めています。
米国政府がこの取り組みを本格的に進めれば、テクノロジー業界や政府と関係する組織にもPQCへの移行が促され、場合によっては移行が義務付けられることになります。つまり、多くの組織にとって無関係ではありません。
大統領令では、以下を含む複数のマイルストーンが定められています。
「高価値資産」と「高影響システム」は広範に定義されているため、すべての連邦政府機関で大規模な対応が必要になります。
最初の要件である「鍵確立へのPQCの使用」は、ML-KEMを指します。ML-KEMは、約2年前にNISTがFIPS 203として標準化した、量子コンピュータ耐性を備えた鍵確立メカニズムです。デジサートを含む多くの大規模組織では、すでにインターネットに接続されたシステムへML-KEMを導入しています。
2つ目の要件である「デジタル署名」は、FIPS 204として標準化されたML-DSAを指します。まだ広く普及してはいませんが、現在でも十分にテストできる段階まで技術は成熟しています。
DigiCert Labsでは、ML-DSAに対応した PQCテストサーバを構築するためのコードと手順を提供しています。これにより、実際の環境に近い条件で耐量子コンピュータデジタル署名を容易に評価できます。ほかにもPQC署名アルゴリズムはありますが、主に特定の用途向けです。
連邦政府がこの取り組みをどの程度本格的に進めるのかは、早い段階で明らかになります。
全体的なスケジュールは、デジサートを含む業界の多くがすでに推奨している内容とほぼ一致しています。意欲的なスケジュールですが、実現可能です。民間組織も、積極的かつ現実的な移行計画を策定する必要があります。
移行はPQCアルゴリズムそのものではなく、それを支えるインフラから始まります。
新しいPQCアルゴリズムにはTLS 1.3が必要です。環境の一部がまだTLS 1.3へ移行していない場合、TLSインスペクションに依存するネットワークセキュリティ製品など、何らかの理由があると考えられます。PQCへの移行は、長年の課題であるTLS 1.3へのアップグレードを完了させる大きなきっかけになります。
まず、本番システムを正確に再現した隔離環境でテストを開始します。すべての実装が最初から問題なく動作するとは限りません。業界全体にとって、これは試行と学習を伴うプロセスです。同じラボ環境を活用して、TLS 1.3への移行を加速することもできます。
テスト環境を構築したらML-KEMを実装し、可能な限り早く本番環境へ移行します。ML-KEMは、現在の暗号化通信を将来の量子コンピュータによる復号から保護することで、「今収集して後で復号する(Harvest Now, Decrypt Later)」攻撃への対策となります。ML-KEMはすでに広く導入されているため、組織がまったく未検証の技術に踏み込むわけではありません。
政府によるテクノロジー関連の義務化は、やがて市場全体の要件へと広がる傾向があります。
連邦政府機関にサービスを提供するベンダは、PQC対応を優先することになります。また、政府機関もサプライヤやパートナに対して、PQC対応を求めるようになるでしょう。
初期の導入状況を見ると、この移行はすでに進み始めています。デジサートのテストでは、多くの米国連邦政府WebサイトがTLS 1.3への対応を含む、高いレベルのネットワークセキュリティを実現していました。米国駐中国大使館もML-KEMに対応しており、連邦政府機関がすでにML-KEMを導入するノウハウを持っていることが分かります。ただし、すべてのサイトが同じレベルの準備を整えているわけではなく、今後の移行規模の大きさを示しています。
金融サービス業界も積極的に対応を進めています。世界でも特に規制の厳しい業界の1つとして、多くの金融機関がPQCを早期に導入する重要性を認識しています。デジサートは、移行準備を進める金融業界の組織と引き続き緊密に連携しています。
連邦政府の要件が市場全体に影響を及ぼすのと同様に、金融機関も取引先に対してPQCへの対応を求めるようになるでしょう。多くの組織でPQC対応が必要となる日は近づいています。今回の大統領令によって、その時期はさらに早まることになります。
量子コンピュータ対応への第一歩は、自社環境のどこにPQCを導入でき、どこにまだギャップが残っているのかを把握することです。
まず暗号資産を棚卸しし、TLS 1.3への移行を計画するとともに、実際の環境を想定したテスト環境でML-KEMを検証します。早期に準備を始めることで、将来の移行を大幅に容易にできます。
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