Device trust 08-20-2026

2G の廃止でネットワークは停止しても、攻撃リスクはなくならない

Brian Trzupek
2G Sunset

8 月 3 日、T-Mobile は米国で最後に残っていた主要な 2G GSM ネットワークを停止しました。多くの報道では、これを懐かしい時代の終わりとして取り上げています。初代 iPhone がついに接続先を失った、というわけです。AT&T は 2017 年に 2G を停止し、Verizon は 2020 年に停止しました。そして今、米国の主要通信事業者の 2G ネットワークはすべて停止しました。

それも 1 つの見方ですが、この出来事で本当に注目すべき点はそこではありません。

むしろ考えるべきなのは、依存するシステムが存在するという理由で、脆弱であることがわかっていたインフラをなぜこれほど長く維持してきたのか、そして今回の停止によって根本的な脆弱性がほとんど解消されていないという事実です。

コネクテッドデバイスのフリートを運用している場合、2G の停止によって安全性が高まったわけではありません。リスクの形が変わっただけです。

2G の安全性を擁護できない理由

GSM は 1980 年代後半に設計されたもので、その古さは明らかです。特に問題となるのは以下の 3 点で、いずれも実装上のバグではなく、構造的な問題です。

  • 認証が一方向にしか行われません。 端末はネットワークに対して自身を認証しますが、ネットワークは端末に対して自身を認証しません。この設計上の判断こそが、IMSI キャッチャーが成立する根本的な理由です。IMSI キャッチャーは、正規の基地局に見える ID を送信し、端末が接続してくるのを待ちます。検証する証明書も、確認する証明書チェーンもなく、チェックできるものがありません。
  • 暗号が破られています。 A5 は、GSM が端末と基地局間の無線通信を暗号化するために使用するストリーム暗号のファミリで、最新の TLS セッションにおける AES と同様の役割を担います。実際には、以下の 3 つのバリエーションがあります。

A5/1 は、世界の多くの地域で標準的な強度の方式として使用されていましたが、2009 年には事前計算されたレインボーテーブルによって破られ、現在では一般的なハードウェアを使用してリアルタイムで解読できます。

A5/2 は、輸出規制を満たすために意図的に強度を下げた方式で、実質的に安全だったことはありません。

A5/0 は暗号化を行わないヌル暗号です。どの方式を使用するかはネットワーク側が選択し、ユーザにはその選択を認識できる有効な通知もありません。

  • ダウングレードはバグではなく、仕様です。 2G は、あらゆる環境で利用できるフォールバックとして標準に組み込まれています。LTE や 5G の周波数帯を妨害したり通信品質を低下させたりすると、最新のデバイスでも、接続先のネットワークを認証できない 2G へと素直にダウングレードします。

これらの問題を組み合わせた現在の攻撃手法の 1 つが、SMS ブラスターです。不正な基地局が端末をダウングレードさせ、通信事業者を完全に迂回して、通信範囲内にあるすべての端末へ直接メッセージを送り込みます。その結果、通信事業者が構築してきたフィルタリング、ブランド評価、送信者認証の仕組みもすべて回避されます。

2G の停止では、この問題は解決しない

ここで見落とされがちなのは、ネットワークの廃止によって正規の 2G サービスはなくなっても、デバイスのベースバンドから GSM のサポートがなくなるわけではないという点です。

不正な基地局を運用する攻撃者に、T-Mobile の協力は必要ありません。デバイスのモデムが依然として 2G のページングに応答するのであれば、正規の 2G ネットワークが存在しない国でも、そのデバイスは攻撃を受ける可能性があります。ある意味では、状況は悪化しています。2G 通信が異常であることは明白になったにもかかわらず、それを監視している組織はほとんどないからです。

Android には「2G」の切り替え設定があり、一部のハードウェアではデフォルトで無効になっています。iOS では Lockdown Mode を使用した場合にのみ 2G が無効になります。一方、現在使用されている多くの組み込みセルラーモジュールには、このような設定自体が用意されていません。また、出荷時のファームウェア設定ではフォールバックが有効なままになっています。

さらに、世界的に見れば 2G はまだ廃止には程遠い状況です。サブサハラアフリカでは現在も 2G が主要な通信方式です。インド、ブラジル、メキシコにも、廃止予定が発表されていない GSM ネットワークがあります。デバイスフリートがローミングするのであれば、「米国で 2G が停止した」ことは、そのままリスクの解消を意味するわけではありません。

デバイスに実際に起きたこと

実際のところ、すべてのデバイスが移行できたわけではありません。相当数のデバイスが、単に動作しなくなりました。

GSM から無線経由で移行する方法はありません。LTE-M や NB-IoT モジュールには 2G シリコンとの後方互換性がないため、移行にはハードウェアの交換が必要です。つまり、すべての設置場所に担当者を派遣しなければなりません。AT&T が 2017 年に 2G を廃止した際には、約 400 万回線が利用できなくなり、その大半が M2M(Machine-to-Machine)用途でした。

移行できた分野では、数年前から誰かが対応を強力に推進していました。決済端末は、決済処理事業者や PCI の要件を受け、2017 年よりかなり前から 3G、さらに LTE へと移行していました。警報装置では、3G の廃止に伴い、業界全体で通信装置の交換が進められました。2G をフォールバックとして使用するマルチモードデバイスは、そもそもサービスが直ちに利用できなくなるリスクはありませんでした。

利用できなくなったのは、長期間放置されていたデバイスです。資産トラッカ、リモートセンサ、公共インフラ機器、無人キオスクなど、10 年前に現在は存在しないチームが設置し、その後誰もインベントリを管理してこなかったハードウェアです。

そして、今回ようやく移行を完了したデバイスフリートも、次の移行に備える必要があります。LTE の周波数再編は、すでに今後 10 年以内のロードマップに含まれています。現在導入が進んでいる LTE-M や NB-IoT も、次の強制的な移行の対象になります。

本当に学ぶべきこと:通信経路を信頼しない

これらすべての問題の根底には、1 つの前提があります。それは、ネットワークがトラスト境界であるという考え方です。しかし、実際にはそうではなく、かなり以前からそうではありませんでした。2G の廃止は、そのことを非常にわかりやすく示した事例にすぎません。

今回の移行を問題なく乗り越えたデバイスは、そもそもセキュリティを無線通信に依存していなかったものです。通信方式から独立した暗号技術による ID を持ち、接続先と相互認証を行い、送信するデータに署名します。基盤となる無線通信をダウングレードされても、攻撃者が得られるのはトラフィック分析の機会だけです。なりすましやデータの注入、侵入の足掛かりにはなりません。

目指すべき設計はこれです。ネットワークを単なるトランスポート層として扱えば、どの世代の通信方式を使用しているかは重要ではなくなります。

デジサートが提供できること

DigiCert® Device Trust Manager は、まさにこの問題に対応するために設計されています。今回のケースでは、特に以下の機能が重要です。

  • 製造時点から確立する ID: サードパーティの委託製造業者を含め、製造工程でバース証明書をプロビジョニングすることで、デバイスが信頼できないネットワークに接続する前から ID を確立します。
  • ハードウェアで保護された鍵: セキュアエレメントに紐付けられた ID は、不正な基地局によって盗み出されたり、傍受したセッションから抽出されたりすることはありません。 既存のフリートに対応しながら将来につなげる登録: レガシー環境をサポートしながら、自動化された登録や更新、より強力なデバイスアテステーションへ移行するための道筋を提供します。
  • 正確なインベントリ: 管理されたデバイス ID の記録により、現在導入されているデバイスを把握し、将来の移行を計画できます。
  • 暗号アジリティ アルゴリズムを切り替え、運用中のデバイスに ID を再プロビジョニングできます。

登録については、もう少し詳しく説明する必要があります。実際のデバイスフリートにはさまざまな世代のデバイスが混在しており、導入済みのすべてのデバイスを新しい登録プロトコルへ移行できるとは限りません。デジサートは、既存環境向けに SCEP や CMPv2 などのプロトコルをサポートする一方、新しい設計では ACME や ACME デバイスアテステーションへの移行が可能です。これにより、登録と更新をさらに自動化し、証明書の発行プロセスの一環としてデバイスが自身のハードウェア ID を証明できるようになります。

より広い視点で見ると、これはデバイスセキュリティが向かっている方向性を示しています。つまり、基盤となるネットワークに依存しない、検証可能な ID、管理された認証情報、そしてライフサイクル全体にわたる説明責任です。

規制の動きも同じ方向に収束しています。米国の Cyber Trust Mark と EU Cyber Resilience Act はいずれも、固有のデバイス ID、安全なアップデート、ライフサイクル全体にわたる説明責任を、差別化要因ではなく基本的なセキュリティ対策として求める方向性を強めています。

2G フォールバックを搭載し続けている皆様へのお願い

デバイスを開発している方、フリートを運用している方、あるいはその間をつなぐファームウェアを開発している方には、今すぐ取り組む価値のあることが 3 つあります。

1. フォールバックを無効にし、「無効」をデフォルトにする

製品を展開する市場で GSM が不要であれば、モデム設定で無効にしてください。そして、その状態で出荷してください。有効化する場合は、モジュール選定時から誰も見直していないデフォルト設定をそのまま引き継ぐのではなく、責任者を明確にしたうえで、意図的かつ文書化された判断として行ってください。

2. ダウングレードを検知できるようにする

2G ネットワークが稼働していない国でデバイスが 2G に接続した場合、それは通信環境の問題ではなく、インシデントです。そのシグナルは SOC に通知されるべきです。現在、この情報を収集している組織はほとんどありません。

3. 通信経路は信頼できないものと考える

ハードウェアで保護されたデバイス ID を使用した相互 TLS、署名されたテレメトリ、そして能動的に管理する証明書ライフサイクルが必要です。無線通信の世代が変わるだけで製品のセキュリティが大きく変化するのであれば、そのアーキテクチャには問題があります。そして、その問題を明らかにするのは 2G が最後ではありません。

ネットワークは変わっても、トラストモデルは変わるべきではない

初代 iPhone が最後の接続先を失ったことは、この出来事の一側面にすぎません。2G の廃止から学ぶべき、より重要な教訓は、通信方式は今後も変わり続け、そのたびに基盤となるネットワークへ過度に依存したデバイスの問題が表面化するということです。

2G が最後の移行ではありません。LTE の周波数再編が控えており、暗号要件も変化します。そして、デバイスフリートは、設計時の前提よりも長く使われ続けます。こうした移行による影響を抑えるには、トラストをデバイス自体に組み込む必要があります。つまり、早い段階で暗号技術による ID を確立し、ハードウェアで保護し、デバイスのライフサイクル全体を通じて登録と更新を行い、通信を運ぶネットワークから独立して管理することです。

脆弱な通信方式への対策は、もともと通信事業者から提供されるものではありませんでした。そして、2G の停止によって実現したわけでもありません。対策の鍵となるのは、デバイスに組み込む ID です。