量子コンピューティングは、これまでにない革新をもたらす一方で、現在のデータセキュリティに深刻なリスクをもたらす可能性があります。「今データを収集し、後で解読する(Harvest Now, Decrypt Later)」という攻撃の脅威により、今日暗号化された機密情報が、量子コンピュータが実用化された時点で露出する可能性があります。企業にとって、備えるべき時は“今”なのです。
スイスのMigros社とNTT DATA社の2つの組織は、理論を超え、量子コンピュータ対応(quantum readiness)を日々の業務に組み込むことの実例を示しています。彼らの取り組みは、ビジネスリーダーがガバナンス、テクノロジー、そして企業文化を組み合わせ、量子安全な未来への持続可能な道を築く方法を示しています。
スイス最大級の食品小売業者であるMigrosは、IBM Rüschlikonとの提携により、将来の量子コンピュータがもたらすリスク評価から量子対応への取り組みをスタートしました。この基盤の上で、同社は「2030年までに量子対応を達成する」という明確な目標を設定。教育、ガバナンス、技術革新のバランスを取る戦略を構築し、「センター・オブ・エクセレンス(卓越センター)」を設立しました。
この戦略には、eラーニングプログラム、技術デモンストレーション、経営層レベルで採択されたセキュリティポリシーが含まれています。リスクベースの優先度モデルを適用することで、Migrosは新しい資産を導入時から保護し、既存の資産についてもデータの機密性に応じて管理を行っています。このアプローチの中核にあるのが、耐量子コンピュータ暗号(PQC)標準の導入に備えたハイブリッド暗号の採用です。
Migrosはまた、「測定と説明責任」を重視しています。ガバナンスおよびレポーティングツールによって進捗を追跡し、自動化ソリューションにより通信中の暗号を分析します。経営層による強力な後援とチーム横断的な連携により、量子対応は単なる技術プロジェクトではなく、企業文化そのものに組み込まれています。
デジタルビジネスおよびテクノロジーサービスのグローバルリーダーであるNTT DATAは、量子対応を保険サービスプラットフォーム内での運用規律として位置付けるという、異なるが同様に包括的なアプローチを取っています。同社はDigiCert Trust Lifecycle Managerを活用し、日本国内のインフラ全体で証明書と暗号依存関係を継続的にインベントリ化。特に長期間保持されるデータや、将来的な解読リスクの高い機密データフローに重点を置いています。
柔軟性を高めるために、NTT DATAは有効期限47日の短期証明書を運用に組み込みました。この実践により、迅速な証明書更新、発行の自動化、一貫したポリシー適用を日常業務の一部として繰り返しテストできるようになり、暗号アジリティを組織運用の基盤としています。同時に、同社はハイブリッド暗号を標準化し、クラシック暗号とPQCの両モードをサポートすることで、マルチクラウドおよびソブリンクラウド環境全体での可用性と相互運用性を確保しています。
さらにNTT DATAは、AWS、Azure、Google Cloudにわたるガバナンスを強化し、マルチクラウド監視に関する知見をオープンに共有してエコシステム全体の対応力を高めています。同社は自社インフラにとどまらず業界全体にも影響を与えており、2023年にはPQC移行に関するホワイトペーパーを発表、規制当局や金融機関との連携を強化し、2025年には初のPQCコンサルティングサービスを提供しました。これらの取り組みからも、NTT DATAが量子対応を単なる一度きりの移行ではなく、長期的な経営課題として捉えていることが分かります。
MigrosとNTT DATAのアプローチは異なりますが、共通点もあります。いずれも、リスク評価を出発点とし、技術的な適応とガバナンスを組み合わせた戦略を構築しています。また、両社ともハイブリッド暗号を量子安全な未来への架け橋と位置付けています。そして、量子対応はIT部門だけの課題ではなく、経営層のリーダーシップ、企業文化への定着、継続的な進捗測定が必要であることを理解しています。
また、両社のリーダーシップは高く評価されており、Migrosは「2025 DigiCert Quantum Readiness Award」の受賞企業に、NTT DATAはファイナリストとして選出されました。両社は実践的かつ全社的な量子対応の業界ベンチマークを築いたと言えるでしょう。
PQC移行を準備する企業は、これらの事例から学ぶことができます。今すぐ計画を立て、量子対応を日常業務に組み込み、セキュリティと並行して柔軟性を重視してください。これらのステップを踏むことで、企業は量子コンピューティングへの備えを整えるだけでなく、安全なデジタル未来の構築においてリーダーシップを発揮できるようになります。
安全なロードマップの構築には、共有された知識と適切なツールが必要です。DigiCertの耐量子コンピュータセキュリティソリューションをご覧いただくか、業界専門家とともに詳細を深めたい方は、World Quantum Readiness Day 2025 オンデマンド配信をご視聴ください。