自動運転からOTA(Over-the-Air)アップデートに至るまで、現代の自動車はもはや単なる乗り物ではなく、車輪の上に載った複雑なIoTデバイスです。埋め込み型SIM、WiFiホットスポット、Bluetoothモジュールなど、今日の車はその“つながり”によって定義されています。
しかし、新たな機能が追加されるたびに、攻撃対象領域も広がっていきます。
機能がすぐにコモディティ化される市場では、消費者は自動車メーカーを「クルマが何をできるか」だけでなく、「運転者・データ・プライバシーをどれだけ守れるか」で評価し始めています。IoTセキュリティを単なるコンプライアンスの項目ではなく、戦略的な差別化要因と捉える自動車ブランドこそが、長期的な消費者の信頼を勝ち取ることができます。
インフォテインメントシステムからリアルタイム診断機能まで、現代の車両はテクノロジーの塊です。しかし、新しい統合が行われるたびに、悪用されるリスクも増えていきます。
これは想像上のリスクではありません。2024年には、Kiaのオンラインポータルの脆弱性により、攻撃者が遠隔で車を解錠・始動できる事件が起こりました。Volkswagenは批判を浴びました。研究者がクラウドインフラの保護が不十分で、電気自動車数十万台のリアルタイム位置情報が漏洩していたことを発見したためです。さらに2025年初頭には、HyundaiのIoniq 5がキーレスエントリーシステムの脆弱性により、わずか20秒で盗まれる可能性があることが明らかになりました。
これらは単なる技術的な失敗ではなく、「消費者の信頼」を裏切る重大な事案です。脆弱性がニュースになれば、その影響はブランド価値に直結します。
現在の自動車ユーザーは、10年前とは比べものにならないほどセキュリティやプライバシーに敏感です。最近の業界調査によると、消費者の80%以上が企業にデータプライバシーの尊重を求めており、64%が積極的にセキュリティ技術を導入しているブランドに信頼を寄せると回答しています。
コネクテッド機能が音声コマンド、運転パターン、位置履歴などの行動データを収集するようになると、消費者の期待はさらに高まります。もはや馬力やタッチスクリーンのサイズだけでは判断されません。 消費者はこう考えるようになっています:この車は安全なのか?
自動車業界におけるサイバー攻撃の件数と影響力は、年々劇的に増加しています。2024年だけでも、400件以上のサイバー攻撃が報告されており、前年と比べて39%増となりました。これらの攻撃には、サプライチェーンパートナーに対するランサムウェア攻撃や、組み込みシステムの脆弱性が含まれています。
ランサムウェアは、現在自動車サイバー攻撃の約4分の1を占める最も深刻な脅威の1つです。その金銭的被害も深刻で、1件あたりの平均被害額は100万ドル超にのぼります。
要点は明白です:サイバーセキュリティはもはや現場レベルの話ではなく、経営レベルの課題なのです。
セキュリティをブランドの強みに変えるには、車両プラットフォームの設計段階から保護を組み込む必要があります。その第一歩が「アイデンティティの保証」です。つまり、インフォテインメントシステムからバッテリーコントローラに至るまで、すべてのコンポーネントが、暗号技術により一意かつ検証可能なIDを持つことです。
これにはOTAアップデートの完全性の保護、車両ネットワーク内の異常検知、ライフサイクル全体を通じた信頼の管理も含まれます。
この取り組みの基盤として重要なのが、公開鍵基盤(PKI)です。適切なシステムを導入すれば、セキュアブート、署名付きソフトウェアアップデート、車両間の暗号通信を、大規模にかつ効率的に実現できます。DigiCert Device Trust Managerのようなソリューションにより、生産スケジュールと連動しながら複雑なセキュリティ管理を行うことが可能です。
セキュリティはしばしば「見えないもの」として扱われます――失敗したときにしか意識されない。しかし、セキュリティを前面に押し出し、明確にコミットメントを伝える自動車メーカーこそが、将来の競争で優位に立てるのです。
セキュリティがしっかりした車は、安全であるだけでなく、賢く、信頼され、規制当局にも安心感を与え、購入後も長期的にブランドを守ってくれます。これからの自動車イノベーション時代において、“つながっている”ことは当然の要件となり、“デジタルトラスト”こそが真の差別化要因となるのです。
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